55歳まで勤めたOA機器メーカーを早期退職し、地元の丹波市市島町で原木椎茸を手広く育てる農家として日々奮闘されている余田ファームの余田拓馬さん。

Uターンして6年ほどの間に農業推進委員やJAの生産者部会、野菜作り3アール運動部会の部会長など幅広く役も務めながら、農家の横のつながりを広げられています。

子どもの頃に遊びまわった里山を取り戻したい、せっかく丹波に来てくれた若い農家を受け入れる土壌を作りたい、大きな夢に向かって会社員時代の経験を活かし、着実に進まれているその姿からはたくさんの刺激と学びを感じます。

 

豪雨災害により帰郷による農業を決意

2014年8月に起こった丹波豪雨災害。

1000件を超える床下浸水や半壊、全壊の家屋被害、そしてさらに多くの農地が土砂や河川の氾濫による被害を受けました。

当時、大手OA機器メーカーに勤められていた余田さん。市島町上垣にあるご実家が床下浸水の被害に遭われ、近くの田畑も土砂に全て埋まってしまったために、通いながら復旧作業に明け暮れます。

子どもの頃に遊びまわった自然豊かな里山が荒れ果て、また、山の手入れや管理をする人が年々減っていることに危機感を感じ、何かできないかと考え始めます。

そうして原木椎茸に辿りつき、会社務めを続けながら、知識を学び、事業計画を練り上げ、55歳の時に早期退職を決断。

Uターンされて本格的に原木椎茸の栽培を始めます。

思った通りには全然いかず、こんなに農業は儲からないものかとびっくりしましたけどね。 と笑う余田さん。

 

とは言いながらも、ホテルのシェフや料亭などのファンを増やし、

またお客さんがInstagramなどで自然と発信をしてくれて、認知が広がり売上も年々伸ばしています。

 

 

原木へのこだわり、里山への想い

そんな人気の理由は、やはり原木へのこだわり。

自然ならではの味わい、風味、噛みごたえのある肉厚な食感は原木椎茸特有の豊かな恵です。

 

 

数はまだそれほど多くはないですが、3年前から原木の舞茸も栽培を始め、人気が高まっているとのこと。

春と秋に、一気に育つ原木椎茸は、販売の機会損失してしまう可能性も高いため、乾燥椎茸やパウダーなどの加工品にして付加価値を上げています。

特に乾燥椎茸は、旨み成分も凝縮され、また免疫力を高めると注目を集めています。

コロナ以降は、自然な食べ物を求める人が増えたと感じ、阪神間から通うお友達が余田ファームの圃場でされているハーブも人気なのだとか。

また栽培方法を学ぶ中で辿り着いた冷水に原木をつけることで周年栽培する方式を取り入れ1年を通した提供を可能にしています。

 

 

原木椎茸の栽培は、山から原木を切り出すことから始まります。

クヌギやコナラなどの広葉樹を切り出し、一本一本に菌を打ち込みます。

そうして植菌した原木を伏せ場で寝かせ、菌を回らせ、余田ファームでは8ヶ月ほどで椎茸が出るような環境を作っています。

毎年2000本の原木に菌を打ち込み、1年目はハウスで栽培、2年目以降の原木は山に運び込んでいます。

キノコは菌なので、植物ではなくどちらかといえば動物に近いのでは、と余田さんは感じているそうです。

菌を打ち込んでから毎年椎茸を収穫していくと段々と原木はボロボロになっていき、最後は堆肥や昆虫用の飼材として利用できます。

あるものをどう活用するか。そんな視点でいつも物事を見ている余田さん。

余田ファームの栽培において捨てるものは1つもありません。

原木は全体に菌が回っているため堆肥として使うと土壌もよくなります。

また、原木を山に置いておけば、水にミネラルが溶け込み、豊富な土壌となり

そこから流れ込む田んぼや畑にも豊かな恵をもたらします。

有機の里いちじまで、里山を守りながら循環型の農業をしていきたい。

大手企業でエリアマネージャーや管理職経験も積んできた余田さんは、ビジネス的な視点を持ち、きっちりと事業計画を立てました。

でも先に述べた通りなかなかその通りにはならない。

しかし有機での田んぼや黒豆栽培、原木椎茸の栽培をしながら山に入って自然と触れ合いながら農業を営むうちに、自分が食べていけるのであれば、里山を守ることや自然の循環など大切にすべきことを優先させてもいいのではないか。そう考えるようになりました。

農家同士の絆を深め、有機の里ブランドを守り育てる

農の学校で椎茸栽培についての講師もされている余田さん

若い子たちが農家の大変さを一人で悩み心が折れてしまわないよう多方面からのサポートをされています。

自分が苦労してきたからこそわかる部分がある、また地元だからこそできることがある。

自分の地域の休耕田を任せて、近くに住んでもらい、ゆくゆくは戸建て住宅を探して地域に入ってもらう。

農業機械を買っても移住してきた身では機械の置き場所を見つけることも苦慮するため、共用の農業倉庫ICHIJIMA BASEを立ち上げます。

自分1人で悩むのではなく、農家同士の横のつながりを深め、「有機の里」市島を共に守り育てていく。

 

控えめながらも、人との調整を円滑に行い、確実に物事を進めていく、その姿は長年バリバリのビジネスマンとして活躍してきたからこそできる身のこなし方、これから必要となる農業経営のスタイルなのかもしれません。

 

 

余田ファーム

所在地:兵庫県丹波市丹波市市島町上垣 志満511

https://www.yodenfarm.com/