丹波栗は古来より朝廷や幕府にも献上され、現代も格式高い贈り物として親しまれています。秋から冬にかけて出る濃霧「丹波霧」などの気候が栗の育成に適しており、生産者の努力によって「丹波栗」ブランドは全国各地に広がりました。丹波市では、2018年から「丹波栗フェア」を開催し、栗拾い・生栗販売・飲食・加工品の販売を支援。開催中は遠方からも多くの人が訪れます。今回はそんな丹波栗の栽培に魅せられた女性・「ヒロちゃん栗園」を営む山本浩子やまもとひろこさんにお話を伺いました。

(ヒロちゃん栗園 山本浩子さん)

 

義父が残した栗園を再生・栗剪定士への道へ

浩子さんの嫁ぎ先には、100本を超える栗の木がありました。当初栗に興味がなかったと話す浩子さんですが、お義父さんが亡くなった後に残された木が気になり、落ちた栗を拾い始めたのが栗と関わったはじめの一歩でした。手入れされていない栗園では、拾った栗の実も小さく、品質がいいとはいえません。栗の木は選定すれば実なりも良くなることを知りましたが、どのように剪定すれば良いのか想像もつかず悩んでいたところ、栗剪定士講習会の話を耳にし、参加するようになりました。

講習会で出会った剪定士の先輩に家の栗園を見てもらったところ、「長期間放置されていたので、これはカットバック(木の根元から切って新しい枝を育てる方法)しないと…」といわれ、ゼロに近い状態に大幅に剪定。そこから再生させることになりました。

日々栗の木と向き合ううち、「専門的な技術を身に付けたい」と栗剪定士の資格を志すようになった浩子さん。初めて受けた剪定士の試験内容は、加西市の栗園で栗の大木を剪定すること。大雨の降る中もう一人の受験者と半分ずつ剪定をし、実技試験終了後に自身が行った剪定の根拠について口頭試問がありました。カッパを着込んで雨に濡れながら奮闘したものの、その年は不合格。
次の年の再受験では実技試験・口頭試問に加えて筆記試験も追加され、浩子さんも学生時代以来、テキストと首っ引きで勉強に勤しみました。努力の甲斐ありその年に無事合格、丹波市で3人目の女性栗剪定士になりました。実地では、栗の木を剪定するときに詳しく説明ができるなど、筆記試験対策で身につけた知識が活きています。

女性ならではの視点で丹波栗のPRや生産者の育成を図ろうと、栗好きの女性を集めて浩子さんが2017年に結成した「栗っこ会」では、女性を対象にした栽培講習会を開催。山本さんに続いて栗剪定士の資格を取りたい人が多数参加しています。浩子さんは自らの経験をもとに、「最初の試験では是非落ちてください」とお話されるのだとか。落ちることも勉強、再挑戦に向けて色んな栗園で経験を積むことが本当の力につながると、浩子さんは実感しています。

木育ては「木育てこそだて」、愛情を持って取り組む

浩子さんが栗剪定士の試験に合格したことは、地元紙で大きく報じられ、新聞を見た人から剪定の問い合わせが相次ぎました。他所の栗園でも、自らが剪定士として関わった木は、その後「どう育っているだろう」といつも気にかかっていると言います。
園主に栗の木の様子を説明するときも、主語は「この木」「この枝」ではなく「この子」。「この子はちょっと弱ってしまっているから」「この子は頑張ろうとしているから」…自然と「この子」と言葉に出てしまうほど、栗の木に愛情をもって接しています。
子どもに熱が出たら看病して、治ったら一緒に喜ぶ。「お母さん」が子育ての中でしているようなことをそのまま栗の木に施す。浩子さんは栗園での営みを「木育て」と書いて「こそだて」と読んでいます。

(大学生のワークキャンプを受け入れています)

日々栗の木と向き合い、また他所の園でも様々な経験を積むことで、当初1本の木を剪定するのに1日かかっていたのが、今では2時間弱、小さい幼木だと1時間ほどで剪定できるようになりました。女性の力だけでは難しい、育ちすぎた栗の木の大幅な剪定には、林業を営んでいるご主人がチェーンソーを使って協力してくれます。ここぞというところに「お父さん」が登場してくれるのも、まるで子育ての風景さながらです。

通年で栗と地域の魅力を発信する八百屋さんをオープン、夢をどんどん形に

(ヒロちゃん栗園DE八百屋さん 外観)

いつしか栗栽培と販売に本格参入していた浩子さん。丹波栗の魅力を広めようと、オリジナルレシピの考案や、イベントの出店など積極的にPR活動を行ってきました。
さらに通年で丹波栗を楽しんでもらえる場所として2020年9月、「ヒロちゃん栗園DE八百屋さん」を175号線の大通り沿いにオープン。質のいい丹波栗を安定して収穫できるようになり「本格的に栗の販売ができる場所が欲しい、栗製品を販売できる加工作業場が欲しい」と思っていた矢先に理想とも言える今の物件と出会い、オープンまで突き進みました。

低温熟成させ、甘みと旨味を凝縮させた熟成栗は一度食べると忘れられない甘さで、地元の人にも必ず驚かれる一品。さらに自分たちで育てた野菜はもちろん、地元丹波の生産者から直接届く野菜や果物、加工品も丹波栗と並ぶ店の主力商品です。優良な農業者さんの販路が少しでも広がればと、浩子さんが信頼を置く生産者さんを一軒ずつスカウトし、販売を請け負っています。

(取り扱い農家さんはパネルにしてご紹介)

直売所奥のスペースは休憩所としてスタートし、スイーツを食べられるカフェ、さらにランチメニューも提供開始。はじめは地元の産みたて卵と仕入れている醤油を使って卵かけご飯からスタートし、親子丼に定食やラーメンなどメニューの幅がぐんと広がりました。丹波市のご当地ラーメンとして誕生した「悪右衛門らーめん」に、季節の自家製野菜や切り干し大根・焼き豚などの加工品をプラスして、ここでしか食べられない味に。主婦ならではの知恵を生かしながら、思いついたことをどんどん形にしています。

(人気ランチメニュー 自家製焼き豚を使った豚丼)

 

(季節の野菜を入れてオリジナルの味に 悪右衛門らーめん)

「楽しくて仕方ない」と語る木育てに勤しみながら、丹波栗の魅力を様々な形で発信していく浩子さん。遠路はるばる丹波栗を求めて来られる市外・県外の人たちと接するたび「丹波栗は需要があるのに、その価値に一番気付いていないのは丹波市内の人なのでは?」と感じるとのこと。「地域にこんな価値のあるものがあると知って、女性でも栗に参入する人がどんどん増えてほしい。そして丹波栗を通してもっと地元を盛り上げたい」と浩子さんは願っています。

(最近株を分けてもらった「花栗」。店舗まわりに植えることを計画中)

 

ヒロちゃん栗園/ヒロちゃん栗園DE八百屋さん

所在地:兵庫県丹波市氷上町朝阪273-5
TEL:0795-86-8133
定休日:月曜日
営業時間:10:00〜17:00
https://www.hirokurien.com/
https://www.instagram.com/hirocyankurien/