丹波市山南町の和田・坂尻地区では、山間に若松の畑が広がり、年中青々とした美しい風景が見られます。この地域では、50年以上も前から若松の栽培が始まり、茨城、愛媛と並ぶ若松の三大産地です。和田・坂尻地区の土質や気温・風土が若松の成長に最適ということで、現在約25軒の農家が若松を栽培しています。
 

 
若松は種をまいてから商品として出荷するまで、かかる歳月はなんと約4年。種から育った初年度の若松は、手のひらに収まるほど小さく、手作業で慎重に次の畑に植え替えられ、そこで3年間の成長を待ちます。刈り取られた若松は、ハウス内の浅い水槽に浸され、水揚げと同時に出荷規格に合わせた選別作業が行われます。不要な枝が取り除かれ、形や長さで分類される、そのすべてが手作業で行われています。
 
(浅田真紀子さん)
 
近年、お正月に飾られる松飾りが減少していること、また栽培農家の高齢化等担い手不足の状況から、若松の栽培の未来が危ぶまれています。若松農家のお一人である「Greebe.(グリーべ)」の浅田真紀子さんは、日々の農作業に勤しみながら、若松の魅力を伝える活動も続けています。
 
 
 

地元・坂尻地区で若松を身近に感じて育つ


 
浅田さんは山南町生まれの山南町育ち。実家をはじめ、地域の多くの家で若松が育てられており、若松農家は身近な仕事の一つでした。浅田さんが子どものころは、どの家でも松飾りがされ、若松の単価も今より随分高かったと言います。とはいえ緻密な手作業が求められる若松農家の仕事は忙しく、天候・曜日関係なくご両親は毎日のように仕事に勤しんでいました。

若松と並行して行われるのが、小菊の栽培です。小菊は松とは異なり、短い栽培サイクルではありますが、その育成には非常に厳格な管理が必要です。気候変動や外来種の侵入などが影響し、虫や病気の発生率は年々増加していると言われます。被害を防ぐために、農家は広大な畑に薬散を行っていますが、薬剤の種類と畑の状態によって散布のタイミングが異なるため、綿密な計画が必要です。
 

 
高校を卒業後、栄養士の専門学校に進学した浅田さん。県内の専門学校に通うべく、約半年は寮生活を送りましたが、その後は実家から通い、卒業後も地元で就職。そして同じ山南町出身のご主人と結婚が決まり、浅田さんの実家の近くに住むことに。やがて若松の栽培や菊の消毒など、日々の作業がご両親にとって負担になりつつあることを知った浅田さん。「このままでは規模を縮小するしかない」と言われたのをきっかけに、ご主人と一緒に若松の栽培に携わることを決めたのでした。
 
 
 

人手不足の業界で、若松文化の継続のために


 
人手不足の業界で、若松文化の継続のために農業をしながらの子育ては、浅田さんご夫婦にとって多忙ですが良い側面もありました。自営業ということで、特に子どもの送迎や体調不良にも対応しやすい働き方ができ、バランスの良い暮らしを実現することができました。
 

 
若松を育てる坂尻地区の農家は、それぞれに提携の市場を持っていて、そこに販路として卸すのが通例です。浅田さんの農場からは、大阪や神戸、名古屋、富山などに若松が届けられています。菊の出荷時期であるお盆前や、松を出荷する10月中旬から12月初旬にかけては、浅田さん夫妻と浅田さんのご両親のほか、短期アルバイトを雇って15~6人体制で出荷に当たります。しかし短期ということもあり、どの農地も求人には苦戦しているとのこと。大々的に募集をかけても集まらないことが多いので、一人ひとり口コミで集めていくのが一番確実なのだそうです。「若松の仕事は難しくないですが、体力的にはマラソンみたいにペースを掴むことが肝心です。ペース配分ができたら慣れて長時間できるようになりますよ」と浅田さん。ご自身も、はじめはお母様などが淡々とこなしていくことに驚いたようですが、今は長く効率よく仕事に取り組めるようになりました。周囲でも後継者や担い手の問題をよく耳にするので、浅田さんご夫婦も、第三者継承を含めて今後の若松文化の継続を考えています。
 

 
 
 

アレンジメントやワークショップで「丹波の若松」をもっと身近に

ご両親の言葉に伴って始めた若松と小菊の栽培。はじめから強い使命感を感じていたわけではないと浅田さんは話します。それでも、幼い頃から過ごしてきたこの坂尻という地域に愛着があり、この地域を盛り上げたいという思いは年々強くなりました。

また若松農家が高齢化で減っていっても、後継が見つからないなどの課題があっても、「若松」にはまだまだニーズがあります。全国的にも産地減少の傾向が見られるため、若手農家である浅田さんに新規のお問い合わせが来ることも少なくありません。ただ受け身でニーズに応えていくだけではなく、丹波栗のように特産品として若松をPRしていかなければいけないと、浅田さんは考えるようになりました。
 

 
伝統的な若松の文化の保存を大切にしつつ、新しく若松を身近に感じてもらえるよう、浅田さんは様々な工夫をしています。例えば、通信販売で若松のアレンジメントのほか、若松がたっぷり入った松竹梅のお正月飾りが作れるキットをご提供。また、毎年12月には若松を使ったお正月飾りづくりワークショップも開催。高名な華道家の先生もお招きしたプレミアムなイベントも開催し、遠方から楽しみに訪れる方もいます。浅田さんの手掛ける松はとても「もち」が良いので、クリスマス飾りからお正月飾りにアレンジして、その後もさらに楽しむことができると大好評。特産品の一つとして「丹波の若松」と認識してもらえるように、浅田さんは日々の作業と発信に勤しんでいます。
 

 
 
 

Greebe.浅田真紀子さん

所在地 丹波市山南町坂尻

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