有機の里として知られる丹波市市島町で、2021年4月に農園を設立した水田農園代表の水田一秀さん。水田さんは広島県出身で、農業にゆかりのない環境で育ち、ゼロの新規就農でした。今回、独立して3年目になる水田さんにお話を伺いました。

(水田一秀さん)

 

食への興味から農業を志す

水田さんは大阪の大学を卒業後、中国へ留学。その後、自分で何かビジネスをしたいと考えたときに、自分が一番興味のあるのは食だと気づき、農業の道を志しました。本格的に農業の技術を学びたいと、研修先を農業関連求人情報が検索できるサイト「あぐりナビ」で検索。奈良県宇陀市にある有機農業の農業法人とご縁が繋がり、奈良県で4年間の研修を積みました。

研修前から有機農業を志していたわけではありませんでしたが、研修先で食べた有機の野菜が美味しかったことから興味を惹かれました。また自分自身「農薬を使わないと野菜は作れないのか」と疑問を持ち、有機農業について学び始めました。学んできたこと、また仕事で重ねた様々な経験から自信をつけ、独立を視野に入れ始めました。

丹波市に「農業に踏み出す場所づくり」を

関西への販路を見込める点と、「あぐりナビ」で見つけた近隣農家「たんぽぽファーム」岩元清志さんとのご縁があって、就農の地には丹波市を選択。2年間たんぽぽファームで働くうち、丹波市なら新規就農のため地域でのコミュニティが作れそうだという印象も受け、独立に向けてさらに歩みをすすめました。

必要な設備を割り出して設計した現事務所は、住宅兼作業場となっており、従業員も数名住み込みで働けるように寮にもなっています。農業したいという志はあっても住む家がない、車も運転できないという人たちが一歩踏み出すお手伝いをできたらという思いが事務所の構造に表れています。

そのような場所作りを考えることになったのは、奥様・菜々美さんの影響がありました。菜々美さんは若者が農家・牧場・旅館などで繁忙期に短期間働く「ボラバイト」で、住み込みで農家のアルバイトをしていたという経験があります。今でも奥様の助けがあり、作業を効率的にするために作業場はいつも美しく整えられています。

栽培サイクルを確立し、さらなる拡大に向けて

春はほうれん草、小松菜、ラディッシュなどの軟弱野菜を中心に、夏にかけてミニキャベツ、ミニトマト、トウモロコシ、レタス、ビーツなどを手掛け、夏はオクラをメインに、パプリカやキュウリ、秋冬はレタス、ミニ白菜と、3年かけて栽培サイクルが完成してきました。栽培品目のミニキャベツやミニ白菜といった「ミニ」野菜。カット不要で販売できる利便性や消費者の使い勝手、利益計算の上でも良いことから「ミニサイズ」にこだわり栽培をしています。主な販路は有機商品のみを扱う「コープ自然派」のほか、環境負荷の小さな農業に取り組む人たちを応援するオンラインショップ「坂ノ途中」、地域の農産物をまとめて京阪神で販売する「山内青果店」など。営業はほぼゼロ、人とのつながりや口コミで販路が広がっています。

(ミニ白菜)

現在は水田さんと菜々美さんのほか、パートタイム労働者や、住み込みで研修をする人たちを受け入れながら日々の農業に勤しむ水田農園。従業員の方は、秋冬などは朝8時から12時まで働き、1~2時間の休憩を取り、17時頃暗くなるまで作業。夏は朝5時から11時まで働き、その間の8時頃に朝食、11時から14時まで休憩し、18時まで作業しています。

従業員の方に求めることは一にも二にもコミュニケーション。挨拶や感謝はもちろんのこと、お互いの考えていることをシェアし合うこと、ポジティブなことだけではなく「嫌なことは嫌といえる」ネガティブな部分も開示することでより良い環境を作っていきたいと考えています。

(この日はスペインからの住み込み研修生が来ていました)

現状、9棟のビニールハウス+露地栽培という規模感で、一時に2人ほどしか雇えないため、一人が働けなくなると作業が回らなくなるというのが課題の一つです。規模を大きして5人ほど雇えるようにしようと、現在ビニールハウスを増築中。来年を目処に18棟まで増やしていくほか、地域の他の農園のハウス管理も頼まれているとのこと。Iターン就農であるというところから、地域の活動にも積極的に参加し、地域に認められる農家として、今後も活動を広げていきたいと語る水田さん。法人化も視野に、農地と仲間を広げるため日々尽力しています。

水田農園

兵庫県丹波市市島町南413
https://www.instagram.com/mizutafarm/