縁もゆかりもない丹波市で2004年に就農、2019年からは圃場を市島町から氷上町に移した丹波みやざきふぁーむ。栽培方法と味にとことんこだわった野菜は、都市部の百貨店や飲食店でも指名買いされている人気ぶりです。丹波みやざきふぁーむの宮﨑徹さん、早織さんに、農家としての歩みをお伺いしました。
 

 
 

夢だった就農、そして結婚。丹波みやざきふぁーむのあゆみ

幼い頃から自然が大好きだった徹さんにとって、就農は長年思い描いてきた夢でした。2004年に思い切って脱サラし、有機の里として知られる市島町へ移住。研修後独立し、コツコツ農業の腕を磨いていました。そこに友人と農業体験に訪れたのが、当時大阪在住で食関連の仕事をしていた早織さんです。「野菜は、体に良いから食べるもの」そう考えていた早織さんでしたが、徹さんの作る野菜を食べたとき「野菜ってこんなに美味しいんだ」と衝撃を受けたといいます。2009年からは夫婦二人三脚で農業に勤しみ、農薬・化学肥料不使用、さらに栽培時に使う肥料も地元産の鶏糞や堆肥・自家製のぼかし肥料など丹波市産を中心に使い、丹波ならではの味を届けています。
 

Iターン就農した宮﨑さんですが、常に人との信頼関係を大切に過ごすことも忘れませんでした。ひたむきに農業を頑張る姿を見た地域の人も、宮﨑さん夫妻をとても気にかけ大切にしてくれていたといいます。しかし、2015年頃から獣害が悪化。せっかく育てた野菜をほとんど出荷できなくなってしまう事態が続き、宮﨑さん夫妻は「農業を続けていけないかもしれない」というところまで追い詰められました。困っている宮﨑さん夫妻の姿を見て、氷上町で農家をしている先輩が「近くに空いている農地があるけどどう?」と声をかけてくれました。ありがたい話ではありながら、お世話になった地域を離れることも忍びなく、悩める日々が続きました。それでもついに移転を決意し、お世話になった一人ひとりに挨拶。宮﨑さん夫妻の奮闘を見守っていた地域の人たちも、「ようやってくれた」と2人の決意を受け入れてくれました。
 
 
 

「宮﨑さんの作る野菜ならなんでも」…丹波みやざきふぁーむが大切にしていること


一枚ずつ地権者へ畑を返していきながら、並行して氷上町での農業も始めた宮﨑夫妻。新しい農地の性質もつかみ、現在は年間50~60種類の野菜を栽培。収量も安定してきました。宮﨑夫妻のイチオシは長ネギ、チヂミほうれん草、カラフルな人参など。栽培品目はテレビやインターネット、マルシェに来たお客様の反応からトレンドを取り入れつつ、徹さんが希望を出し、早織さんが主婦目線で使いやすさも含めてチェック。

栽培品目選定にあたって最優先することはとにかく『味』。もちろん味の感じ方には個人差がありますが、まずは自分たちが自信をもって「美味しい野菜」といえるものであることが第一です。農家にとって作りやすく改良された品種と、葉っぱが多く手間がかかるけど美味しい品種があれば、後者を選ぶ。そうすることで、収量は抑えめになりますが、飲食店や百貨店マルシェなど、品質と味を求める人に喜んでもらえるようになりました。取引先向けに「ほしい野菜を教えてください」とアンケートを取ることもありましたが、みなさんが口をそろえて「宮﨑さんの作る野菜であれば」と回答、寄せられた信頼感に2人は一層身の引き締まる思いだったといいます。
 

コロナ禍前までは、京阪神の各地のマルシェに顔を出していたお二人。今はその機会こそ減りましたが、毎月第3土曜日・西宮阪急のフードマルシェは定着しており、丹波みやざきふぁーむの出店日に合わせて来店する、「名前は知らないけど、いつも買いに来てくれるリピーターの方」との交流もお二人にとって楽しい時間です。西宮阪急には定期的に野菜を送っていますが、実際に消費者の方と触れ合い、説明することで野菜の魅力がよく伝わり、手に取ってくださる人も増えるなど手ごたえを感じています。

「マルシェのスタッフさんも熱意のある方で、生産者と消費者をつなぐことをコンセプトに運営されています。野菜はどこでも売っているかもしれないけど、ここでしか出会えない野菜があると伝えてくれる場が百貨店にあるのがありがたいことです」
 
 
 

Iターンだからこそ語る、農業の現実と試練の乗り越え方


都市部から丹波市に移住し、農業で生計を立てている宮﨑夫妻は、新規就農を考える人の相談を受けることもしばしば。「僕自身就農するときには、貯金額が1000万円あるかと聞かれました。でも当時の貯金額は100万円を切っていて、当時受けることができた補助金などを使いながら乗り切りましたがかなり厳しかったです。支援制度や補助金はしっかりチェックして、使えるものは使ったほうがいいですね。特に地元の人と違ってIターンは圧倒的にマンパワーが足りないのでより厳しい、その覚悟は必要です」

就農から現在に至るまで何度も農業の厳しさを感じる日々でしたが、その中で実感したのが人とのつながりの大切さ。どれだけおいしい野菜を作っても、目の前の人とのつながりを大切にすることが身を助け、「本当にいい人たちに恵まれたから」今の2人があるといいます。
 

ここ数年はSNSで消費者からお問い合わせも受け、野菜を指名買いしてくれる人も増えるなど、新たなつながり方ができてきました。農地が変わり収量が増え、売り上げも上がるのはうれしい悲鳴ですが、その分効率化が求められるようになってきます。「スマート農業なども取り入れて、心の余裕をもって取り組みたい。収穫がない時期は苗づくりがあるなど、農家は年中無休です。人を雇うのか、それとも2人でできる範囲にとどめるのかというのは今の課題です」。農業は想像以上に忙しく毎日があっという間だといいますが、それでも喜びにあふれた毎日だとも話します。

「一日の仕事を終えて、雄大な山に夕日が沈む風景を見たとき、『幸せだな』と感じます。どんな仕事も、村のつながりも、楽しんだもの勝ち。そういうポジティブさは嫁から学んでいます」と話す徹さん。早織さんは「とにかく農業が好きであること、そして好きでい続けることを大切にしています。野菜を食べて喜んでくれたという声を聞くのが何よりうれしいので」と笑顔を見せます。
 

厳しさをしなやかに受け入れる覚悟と、目の前のことをひたすらに楽しむ姿勢。美しくおいしい野菜を届けるために、2人は今日も農業に勤しみます。

 
 
 

丹波みやざきふぁーむ

所在地:兵庫県丹波市氷上町新郷
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