農家で生まれ育ち、一度故郷を離れてから、帰郷し就農する。Uターン就農のケースは丹波市内でも時々見られます。今回お邪魔した、丹波市春日町にある「なかで農場」中出靖大さんもその一人です。家族が築いてきた地盤を受け継ぎながらも、時代に即した新しい風を吹き込み発展させていく、中出さんの姿勢と思いを話していただきました。
 
 

 

作物の品質を高めるためのフレッシュな情報は諸先輩方から

 
高校進学を機に生まれ育った実家を離れ、大学卒業と同時に帰郷した中出さん。新卒で農業協同組合に就職し、その後就農して10年経ちます。現在抱えている圃場は延べ約19ヘクタール。耕作放棄地を受け継いでくれないかと声をかけられることも多く、徐々に耕作面積は増えていますが、家族経営なので手広くするのにも限界があります。「手広くするよりも、質の高いものを届けたい」というのが、中出さんの農業のポリシー。今は、お米のほか山の芋や丹波大納言小豆などを中心に手掛け、その品質の高さには定評があります。
 
 

 
取材時、中出さんは山の芋の集荷に向けてひげ根をとる作業をしていました。ひげ根をバーナーで焼き、泥を落とす。そうすることで味だけでなく見た目も良くなり、受け取った人に喜んでもらえます。形も見た目も味も良い山の芋を栽培するための情報は、「やっぱり年配の先輩農業者からの実体験からの情報が一番フレッシュ。そういうことは、ネットにも上がっていなくて農業者の頭の中にあるから、話を聞いて参考にしています。」各種生産者組合に所属し、農業者どうしの横のつながりを広げることが、大きな学びを得るために大切だと中出さんは話します。
 
 

 

Uターン就農者として、若手農業者として

 

(作業場一面の山の芋。贈答用や後述する加工品にされる)


 
Uターン就農の強みは、農地も農機具も揃った状態で就農ができ、またご両親や祖父母が築いてきた人間関係にも助けられること。それでいて、年齢の近い若手Iターン就農希望者をアルバイトとして受け入れるなど、来るもの拒まずの姿勢もあるので、Iターン就農者と地元農業者をつなぐアニキのような存在でもあります。

そんな中出さんからみた丹波市の魅力は、「気候条件が良く、その気候に合った農作物が選りすぐられて栽培されていること。そして昔から営農している農業者がいて、美味しいものに対する技術とプライドがあって丹波ブランドとして認識されていること」。そしてその分、「技術の高いスペシャリストな農業者さんが多く、そこで自分の農業を確立していくのは難しい面もあると思います」と話します。
 
 

(山の芋収穫風景)


 
 

 

赤飯にミルクジャム…加工品を通して打ち出す新機軸

 
農業の後継者として、「なにか新しいことを」と中出さんが始めたのが、小豆や山の芋の加工品の商品開発です。大粒の丹波大納言小豆を使ったレトルト赤飯「赤鬼飯」は、地元の高校生と一緒に企画開発をした商品です。電子レンジで温めるだけでもちもちのお赤飯ができる、その手軽さと食味の良さが人気の秘密です。ご自宅用はもちろん、贈答用にも好評で、この商品は2021年から、摂丹地域と大阪府の一部を含めた計205局の郵便局で店頭販売されています。丹波市産の食品を地元の郵便局で窓口販売するのは初めてのことですが、現在なかで農場の重要な販路を占めています。
 
 

(収穫間近の丹波大納言小豆)


 
観光客からのお土産に人気なのが、丹波大納言ミルクジャム。甘く炊き上げられた丹波大納言小豆のあんこに、牛乳のジャムを加えて2層に。簡単にあんトーストが楽しめるほか、クラッカーにつけて食べるのもおすすめです。
 
変わりどころでは、丹波山の芋をフリーズドライにしてあられと合わせた丹波山の芋あられふりかけ。パリサクの歯ざわりと山の芋の食感が楽しいふりかけは、ごはんのお供にぴったりです。
 
商品開発の際に心がけているのは、自分だけのアイディアに留めないこと。お付き合いのある取引先や加工業者などとコミュニケーションを取りながら、流行も取り入れてアイディアを形にしています。そして加工品を提供する上で気をつけているのは、品質の安定感。一度食べて気に入ってくれた人に、もう一度同じ品質の味をお届けするため、常に高品質の原材料を加工場に回しています。品質と数量の安定感は、販路開拓のときにも大切なことです。そのため保存にもしっかりこだわって、鮮度を保つための工夫を怠りません。
 
 

 
品質に自信のあるこれらの加工品は、農協や道の駅などの店舗販売のほか、Amazon、楽天などの大手ECサイトでも販売を行っています。市内の農業者さんでも大手ECを使われているのはまだまだ少ないですが、出品にあたってカメラマンに商品写真を撮ってもらうなど見せ方にはきっちりこだわりました。「手作り感もいいですが、うちは商品というかたちで打ち出すのを大切にしています。そのほうが、軌道に乗って大量注文が来ても対応しやすいので」。丹波市の伝統に裏付けられた品質を受け継ぎながらも、時代に即した売り方とPR方法を試し、様々な方法で新機軸を打ち出すなかで農場。多くの人のプライドで築かれてきた丹波ブランドを多くの人に届けるため、日々農作業と販路開拓に励んでいます。
 
 

 
 
 

なかで農場合同会社

所在地:兵庫県丹波市春日町黒井1844
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