農業経営において第三者継承のケースが少しずつ増えています。第三者継承とは、現経営者の親族ではない者に継承すること。農業の場合は、事業主の農地や施設、機械などの有形資産と技術やノウハウなどの無形資産を第三者に継承することになります。

今回はこの第三者継承が実際に丹波市で行われたケースに迫ります。丹波市氷上町上新庄で地域を上げて農業に取り組む「農事組合法人丹新つなぐ」。法人代表の本庄直樹さんと、本庄さんに農業を引き継いだ足立正典さんにお話を伺いました。
 

(左 本庄直樹さん 右 足立正典さん)


 
 
 

高度経済成長の中、地域のために大規模農業に着手

足立正典さんは、丹波市氷上町上新庄で生まれ育ちました。花卉農家の家業を後継するため、高校卒業後は埼玉県で研修し、技術を身につけてまた地元へ。花卉花木農家として働いてきましたが、昭和44年から始まった第二次農業構造改善事業や高度経済成長の影響で、大規模農業経営が地域農業の中核的地位を占める構造の実現を目指す風潮になりました。地域では大規模農業に取り組む人がいなかったため、参入してほしいと地域の方から頼まれた足立さんは、規模を広げて米と小豆の栽培をはじめました。
 

 
現在「丹新つなぐ」の事務所がある倉庫は、集落の中心的な位置に建てられています。足立さんが倉庫を建てる時、地域の農業を守る基点にしたいとこの場所を選択。集落の中盤に大規模な農業倉庫を建てることは異例でしたが、地域の農業を盛り上げるための足立さんの熱意に打たれた当時の氷上町長が県に掛け合ってくださり、この場所での建築が叶いました。そのころから足立さんには、親から子へつなぐ形だけでなく、地域のみんなで農業に取り組んでいくというビジョンが見えていました。
 

 
 
 

農業のある暮らしの中に育ち、いつしか地域の農業を考える


 
本庄直樹さんも、丹波市氷上町上新庄で生まれ育ちました。足立さんとは近所の心やすい仲で、幼い頃に足立さんが運転するトラクターに乗せてもらった経験もあり、農業にはポジティブなイメージを持っていたと言います。仕事は家業の工務店を後継しましたが、地域に当たり前にあった農業の担い手が不足していることに疑問を持ち、2019年頃気心が知れた幼馴染のメンバーと一緒に「Kクラブ」という任意団体を結成。地域の畑でにんにくの栽培を始めることになりました。メンバーは全員他に本業を持っていますが、お互いが子どもの頃からよく知っているからこそ、それぞれの得手不得手を把握し、農業における分業もスムーズにいったといいます。
 

 
一方、その頃も精力的に農業に取り組んできた足立さんでしたが、やがて従業員も含めて高齢化し、将来に不安を感じるようになってきました。Kクラブの活動は、足立さんにとって一つの希望になりました。
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Kクラブを結成してから2~3年経った頃、本庄さんたちが足立さんの倉庫(現事務所)を訪れ、この地域の農業をどうしたらいいか、農地はどうしたらいいかと話に来てくれました。慣れない農業に苦戦しながらも前向きに取り組む本庄さんたちの意気込みを見て、地域の農業をなんとか次世代に繋げたいと考えていた足立さんは、自分がやってきた農業を一緒にできないかと打診。「自分の子どもは遠くで働いているのと、(本庄さんたちは)もう昔からよく知っている子たちなので、抵抗は全くなかった」と話します。
 

 
本庄さんたちも、これまでの栽培ノウハウを教えてもらえること、自分たちで用意するのは難しいような機械や資材を譲ってもらえることに魅力を感じました。本庄さんたちは任意団体から農事組合法人「丹新つなぐ」を結成し、2021年からは足立さんの農業を引き継ぐ形で農業に取り組みはじめました。現在は、足立さんと「丹新つなぐ」のメンバー合わせて15人で、丹波大納言小豆やコシヒカリの他、丹波地域では珍しい酒米「山田錦」の栽培も行っています。メンバーの鉄鋼職人さんが機械の修理や性能アップを図ったり、経営経験がある本庄さんが減価償却も見据えた資材の管理を行ったり、発信が得意なメンバーがInstagramやTikTokでリアルタイムの農業を発信したりと、グループならではの取り組みもとてもユニークで、SNSでの反応も上々です。
 

(農機具倉庫の中にはたくさんの大型機械が整備されている)


 
 
 

第三者継承ならではの壁、負担のない継承のために


 
事業継承にあたり課題となったのは費用面。継承先が親族や従業員などの場合と、第三者への場合では、課税される税金の種類や費用が大きく異なります。引き渡す側が「無料で引き渡したい」と思っても、引き継ぐ側にとっては税金の支払いの負担になることもあります。場合によっては「販売」という形にしたほうが引き継ぐ側の負担額を減らすことにもなることを知り、足立さんは専門家と相談しながらなるべく引き継ぐ側の負担にならない方法を模索したといいます。また非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予である「事業承継税制」は親族外への贈与や遺贈においても適用が可能なので、第三者継承を考える人は制度の活用も検討したほうが良さそうです。
 

 
本庄さんたちと足立さんがともに農業を行うようになってから2年。肥料価格の高騰を機に、持続可能な農業経営を実現するため循環型農業に軸足を置き始め、オリジナルの堆肥づくりにも挑戦中です。資材価格の低減だけでなく、土質を良くすることで環境にも優しい農業に目を向けています。それもこれも、「丹新つなぐ」のメンバーがこの土地と、農業を、名前の通り「次世代につなぐ」ことを一つのテーマとしているからです。また「丹新つなぐ」の「新」は、足立さん、本庄さん、そしてメンバーたちが生まれ育った上新庄の「新」ですが、いずれは隣の下新庄地区とも力を合わせていきたいという思いも込められています。地域全体で地域の農業に取り組み、発展させて、次に繋げる。丹新つなぐのメンバーの挑戦は世代を超えて続きます。
 

 
 
 

農事組合法人 丹新つなぐ

所在地:丹波市氷上町下新庄1101

電話番号:0795-88-5343

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