山々に囲まれた丹波市では、昭和初期頃までは専業農家を営み、家で牛を飼うという暮らしの風景がよく見られました。丹波市市島町にある「神戸髙見牛牧場」の社長・髙見進さんが幼い頃育ったのも、そんな「当時一般的な農家」だったといいます。牛を育て、肥やしを得てお米や野菜を育てる。小さく循環する農業の風景がそこにはありました。
 


 
 
 

「食肉文化」に目をつけて、畜産農家へ転身

現在「神戸髙見牛牧場」といえば丹波市内を代表する畜産農家の一つです。脂肪の交雑具合、肉のきめ細かさや色味など、その肉質の良さで知られる兵庫県産黒毛和種を、繁殖から肥育まで一貫して行っています。丹波市市島町(勅使・与戸・喜多の3ヶ所)に大きな牧場と直売所・定食屋があるほか、同町内にレストラン、京都府宇治市にもお店を構えています。進さんは神戸髙見牛牧場を一代で今の形までにしました。
 

(髙見進さん)

 

子どもの頃から農業の一環として牛を育てる両親の姿を見て育った進さん。高校卒業後は電話会社に勤め、昭和42年に30歳で独立。情報に敏感だった進さんは、当時の日本人の食文化の変化から、食肉の仕事に可能性を感じたといいます。経営していた電話会社から大きく転身、まずは昭和45年に京都府宇治市に精肉店をオープン。もともと身近に牛がいたこともあり牛は好きでしたが、未経験からのスタートでした。その後、食肉販売業の会社を立ち上げ、2号店、3号店と店を増やしながら、市島町与戸に牧場をオープンしたのは昭和57年のことでした。畜産農場の課題として挙げられるのが近隣へのにおい対策ですが、神戸髙見牛牧場のある土地は風がいつも北北東に吹き抜け、近隣の民家が風下になることはありません。大規模経営でも近隣の支持を得ながら経営できているのは、進さんの立地選びにも鍵がありました。
 


 
 
 

牛は話せない。だからこそつぶさに見て寄り添うことが肝要

良い牛を育てるためにはとにかく観察が大事。神戸髙見牛牧場では現在約1,200頭の牛を飼育していますが、棟ごとに代表の従業員が責任者を務めています。進さんは従業員との連絡を密に取り、少しでも変わった所があれば報告するように伝えています。

「とにかく早期発見が鍵なので、私の方から従業員に牛の様子を積極的に聞いています。従業員も(社長に)聞かれると思ったら気をつけて見るでしょう。そして報告してもらい、良い牛を育てることにつなげていく。それが従業員の自信にも繋がりますから」

進さんは毎日早朝の5時には起床。従業員から報告を受けるなどして気になっている牛の様子をまずは見に行き、自らの目で観察します。「生き物を飼うものとして当然のことです。牛は、どうしてほしい、こうしてほしいと言ってくれない。自分たちの目で様子を見て色々考えることが大切です」
 

 
その観察眼を生かして、牛の体に良いと考えられる独自の飼料の配合も編み出しました。独自配合の飼料を取り入れることで、不飽和脂肪酸値や旨味成分の含有量を高め、食感の柔らかさとみずみずしさを保つことに成功。また、神戸髙見牛牧場がある市島町には、かつて多くの酒蔵が軒を並べ、現在も銘酒の郷として知られるなど、その水質の良さにも定評があり、この美しい水が牛の体にも良い影響を与えていると考えられています。

自然豊かな環境と綿密な観察、飼料をはじめとした肥育の工夫が実を結び、神戸髙見牛牧場の牛は、和牛会のオリンピックと言われる平成4年開催の第6回全国和牛能力共進会で内閣総理大臣賞(全国優勝)を受賞、また平成22年の第92回兵庫県畜産共進会で名誉賞(優勝)を受賞するなど、その品質の高さが広く認められています。
 


 
 
 

めぐる、つなげる、農業と経営の形

かつての農家はそれぞれに牛を飼い、得た肥やしを使って農作物を育てるという循環がありましたが、神戸髙見牛牧場のような大規模な肥育をしている場合、畜産廃棄物はどうしているのでしょうか。

神戸髙見牛牧場では、牧場オープンからしばらくは、自社で機械を所有し堆肥を作り、近隣の農家さんと直接話しをして散布までを一貫して行っていました。しかし労力と規模感のバランスがとれず、うまく回らないこともありました。平成4年、神戸髙見牛牧場の近くに市島町が堆肥センター(現・丹波市立市島有機センター)を建設してからは、集めた畜産廃棄物を市島有機センターが引き取り、「市島ユーキ」として親しまれている堆肥を生産・販売しています。
 

 
この仕組みにより、大量の廃棄物を溜め込むことがなくなったのは神戸髙見牛牧場のような近隣畜産農家にとって大きなメリットでした。そしてこの「市島ユーキ」は「有機JAS規格に基づく使用可能資材リスト」にも登録されていて、近隣の農家さんが安心して使えるものにもなっています。このことが農業の基本である土づくりをすすめ、丹波市市島町が今「有機の里」として知られる礎の一つとなっているのです。

 

繁殖から提供まで一元化して自分たちで行う神戸髙見牛牧場。牧場の隣りにある「安食の郷」では牧場直営で精肉の提供やリーズナブルなランチメニューの提供も行い人気を博しています。
 

 
各部門ともに従業員が「牛のプロ」として成長し、求人や人手不足に悩むことはないと進さんは話します。また平成30年には繁殖農家として新規参入したいという若者の研修も受け入れ、飼育技術を惜しみなく伝授。令和元年には研修生が独立し、丹波市としては30年ぶりの繁殖農家の新規参入に繋がりました。

「昔、鴨庄地区(丹波市市島町、進さんの故郷)の村長さん(吉見善左衛門氏)が畜産を積極的に支援してくれて、この地域に畜産の文化が根付いた。その功績を継続し、後世に伝えるのも我々の責務です。」

会社の後継者の見通しもでき、経営もうまく循環している神戸髙見牛牧場。人と、牛と、環境が無理なく循環する今のスタイルをこれからも継続していきたいと、進さんは力強く話します。
 

 
 
 

神戸髙見牛牧場株式会社

所在地:兵庫県丹波市市島町勅使新宮ノ下1037-4
TEL:0795-85-2914
https://takamibeef.com/