【入学前について】

● 農業をやりたいと思ったきっかけは何ですか

子どものころからの憧れですね。私は京都府南部の地方都市で育ったのですが、まだ近所に農地がたくさんありまして、そこで農作業をしている人たちを「素敵だなぁ」と思い、いつか農家になりたいと漠然と憧れていました。

それともうひとつ、ものづくりへの憧れですね。美味しいものを食べたら、笑顔になれる。手先が不器用なせいか、笑顔のもとを作れる農業に対して憧れがありました。

 

● なぜ農の学校を選んだのですか

はじめは他県での就農を検討していたのですが、なかなか話がうまく進みませんでした。そんな時にふと見つけたのが農の学校でした。すぐに学校見学を申し込み、見学の際に学校の先生が別の場所でやっていたオンライン講義の一部を見せて頂いたのですが、その内容が理論的でわかりやすかったのが選んだ一番の理由です。農業といえば、ベテラン農家の「勘」や「経験」が不可欠なイメージがあって、非農家出身の自分としては、それが参入障壁のように感じられていました。でも農の学校では、植物生理や土壌環境等、理論に裏付けされた栽培方法を基礎から学べるという事で理解しやすかったので、初心者の自分でも美味しい野菜を作れるようになれるかもしれない、と考えて入学を決めました。

 

【農の学校にて】

● 実際に入学してみて、自分に変化がありましたか?

先生やベテラン農家さんの言葉の背景にあることが、それなりに理解できるようになりましたね。一年前であればそういった話を聞いても「プロが言うのだから、それが正しいのだろう」としか思えなかっただろうと思いますが、今ではそういった話を聞いて納得できたり、疑問が浮かんだりするようになりました。とはいえ、自分の口で説明するとなると、まだまだうまく説明できないことが多いのですが…。

 

● 黒さや大納言小豆、在来野菜の魅力に、どっぷり

もうひとつ大きな変化といえば、つくりたい野菜ですね。入学当初、私はアスパラガスを作りたいと言っていたのですが、地域での出会いから在来野菜へ興味が移ってしまいました。

入学して間もない頃、移住者交流イベントに参加した際に、地元の希少な在来品種「黒さや大納言小豆」を栽培する農家さんへのご縁ができました。そこで話を伺いに行った際、一度は絶滅しかかっていたこの品種を再発見し、地域で大事に復活させてきたストーリーの面白さと、それを担った方の地域への想いの深さに感動しましたね。更にそこで小豆以外にも様々な在来野菜にも出会い、すっかりその魅力にとりつかれました。

結局、そうしたご縁を通じて自分の就農地も決まり、その地域の方と一緒に農業をやっていきたいと強く思った為、その地域で家も買ってしまいました。

● 旅が好きだからこそ、ローカル性を楽しみたいし、楽しんでもらいたい

在学中は同級生と一緒に県内外の農家さんを訪ねてまわりましたが、学校で学んだ内容が無意識のうちに固定観念になっていた場合でも、訪問先の農家さんから色々なやり方、考え方等を見聞きしているうちに、そういった固定観念に気付かせてもらえた事もありました。また、学校の講義内容とは真逆のことを言われることもありましたが、それはそれで「農業には唯一の正解はない」ということを実感させて頂ける貴重な機会となり、良い勉強になりました。

今後については、黒さや大納言小豆をはじめとした在来野菜や丹波の名産品である栗等を栽培しつつ、在来野菜の持つ面白さや魅力を積極的に発信していきたいし、発信できる場所も作りたいです。また、色々な地域を訪問し、地域の人・作物・景色等にも触れさせて頂けたので、そういったローカルな情報も丹波に来てくれた人に繋ぐことで、農業や地域に少しでも興味を持ってもらえるようにしたいですね。それに、観光客の希望通りに車で丹波市内を連れまわす観光ボランティアや、在来野菜食べ歩きツアー等もやってみたいです。

そうやって、在来野菜という文化財を次の世代に繋ぐだけではなく、今の世代に人や地域を繋ぐことで、楽しむ為の選択肢を増やしていければいいですね。