果実は空腹を満たすのではなく、心を満たすもの。

毎年、手入れを欠かさず、年月を重ねて木を育て、実を収穫する果樹栽培。
春に植えて秋に収穫できる畑の栽培とはまた違った苦労や喜びがそこにはあります。
外部から人を呼び、地域の自然と共に収穫を楽しむ観光農園として果樹栽培を行い、丹波市内でただひとり丹波栗の地域特産物マイスターでもある石戸観光農園の河村修治さんにお話をお聞きしました。

果樹園を引き継ぎ観光農園経営へ

経済成長真っ只中のバブル期、旅行ブームとともに観光農園によるぶどう狩りやいちご狩りが各地に広がりました。
石戸観光農園がある丹波市柏原町の石戸地域は近代に開拓された川のない地域。戦後には乳牛や養蚕などが行われ河村さんの父親もこの地で色々と手がけながら、果樹栽培と観光農園に辿り着きます。

その当時はサラリーマンをされていた河村さん。
42歳のときに父親が脳卒中で倒れてしまい、突然跡をつぐことになりました。
そのとき栽培されていたのは栗の木とぶどうの木。そして、リンゴの木が植えられたばかり。
お勤めされていた河村さんの生活は一変。父とともに農園で働いていた母親と河村さんご夫妻と一緒になって、また河村さん自身でも勉強しながら手探りで農園を守り、とにかく目の前のことを必死で行いました。
平成2年の継いだ頃は丁度、大型バスや家族旅行でぶどう狩りや梨狩りにたくさんの人が訪れていた時代。
目まぐるしい毎日に追われながらも、お客さまがいくらでも来てくださり、子育てもある中での経済面でもなんとかなるだろうと思うようになったと話します。

最初は後先のことなど考えられず、一生懸命に過ごしながら、それでも続けているうちに、だんだんブドウや栗を育てる楽しみを感じるようになってきます。
そうして栽培の面白さを感じるようになると、学習意欲も湧いてきて、また、他のことにも目を向けられるようになってきます。
この地域の将来のことも考えていくと、やはり丹波栗に力を入れるべきだと決意し、ご両親が育てていたリンゴの木は10年ほどで辞め、その場所に更に栗の木を増やします。

知識を追い求め、手をかけて美味しい作物を

丹波栗は多くが銀寄か筑波という品種です。石戸観光農園に植えられている栗の木もその2種類が多いのですが、鬼皮の向けやすい「ぽろたん」や鮮やかな黄色と甘みが特徴の「美玖里」など、新たな品種も育てています。
何年も年数をかけて育ててきて、実が実ってはじめてこの地に合う・合わないがわかることも多く、忍耐力のいる仕事です。
成るまでに木をいかに育てるか、上手くいかないと「もっとこうしておけばよかった」「あのタイミングで水をあげればよかった」など、後悔も湧いてきます。それを翌年に活かし、改善を重ねるその姿には、木への愛着と果樹園ならではの苦労や工夫を感じます。

県の農林水産技術センターや農業改良普及センターなど、新しい技術を教えてもらいながら勉強してきた河村さん。
20年以上も前、今では大人気のシャインマスカットがまだ開発されて間もない頃、知り合いから「新しい品種ができた」と食べさせてもらいました。はじめてシャインマスカットを食べたとき、その美味しさと皮のまま食べられる手軽さに衝撃を受けます。
まだ丹波地域では他に誰も栽培してなかった時期から苗木を入手し、いち早く栽培を開始しました。

他にも現在育てているブドウの品種はピオーネに藤稔。収穫時期は8月の中旬から9月の中旬頃まで、たくさんの人がお越しになります。そして、それが終わると、9月末から10月の中頃まで、今度は栗の収穫時期に入ります。

観光農園と果樹栽培の魅力を未来へ

昭和の終わりから平成にかけて、大型バスが何台も来ていた観光農園。
バブルが弾け周囲では段々と農園の閉鎖も見られるようになりました。
石戸観光農園では相談いただく贈答品にきちんと対応してきたことと、宅配便の普及にも伴い、観光が減った分の商品は贈答品に置き換わりました。余りはほぼなく出てしまい、収穫の終わり頃になると要望の声にも応えられないことも多いのだとか。

観光農園の魅力は、その地に行って自然や環境を肌で感じながら、木に実っている果実を手にするその体験や感動にあると河村さんは感じています。

子どもの頃に道に落ちていたいが栗や童話に出てきた栗が、心に残り、この地で引き継がれていくようなそんな果樹栽培を目指し、日々木の手入れを欠かしません。

(丹波市内で唯一 丹波栗の地域特産物マイスター)

果樹は植えてから実が成るまでに3年や5年と時間がかかり、すぐにはお金になりにくい農業です。
若い人が簡単には始められない難しさがあります。また、既存の生産者側も高齢化が進んでいます。
心血を注いできた農園には思い入れも強く、簡単には引き継げない跡継ぎ問題も課題です。
昔は観光農業協会などがあり、果樹全体でのつながりがありました。
しかし、近年では栗やブドウのそれぞれの振興会や研究会はありますが、全体での情報交換の場が減ってしまったと河村さんは感じています。
後継問題だけでなく、天候や気温、カメムシや獣害など、厳しい環境に負けずに果樹や観光農業を続けていくためには、何か工夫や仕掛けが必要なのかもしれません。

河村さんは観光農園で果樹栽培を続けるにあたり、軸となる理念を掲げています。

 

果実は空腹を満たすものではなく心を満たすものである。

人の心に響く観光農園を目指すとともに、果樹栽培を通じて地域振興に貢献する。

 

繁忙期にお手伝いしてくれている方々は何十年も来てくれているベテランさんばかり。

丹波栗の認知度を更に広げ、河村さんが生き生きと語られる果樹栽培の魅力がたくさんの人に伝わるといいなと思います。

石戸観光農園

丹波市柏原町石戸54