大阪で生まれ育ち、東京でシステムエンジニアとして働いていたサラリーマンが心機一転、丹波の地へ。田舎暮らしも農業も初めてだという古谷浩二郎さんは、「丹波 みの香ファーム」としての独立就農から3年目、毎日楽しみながら農業を続けています。大きな生活の転換を経て、古谷さんがしっかり地域に根付いた秘訣を、インタビューを通して探ってみました。
 

 
 

きっかけは一枚のチラシ。「農の学校」に惹かれて

40代前半まで、東京でIT関係会社に勤めていた古谷浩二郎さん。貸し農園で家庭菜園を楽しむのが趣味の一つでした。「家庭菜園だけでなく、農業を学んで農業を仕事にしたい」そう思ったきっかけは、貸し農園を運営する会社から「丹波市立みのりの学校」のチラシを受け取ったこと。2018年、ちょうど2019年の農の学校第1期生を募集していた時期です。出先の農産地で出会った、とれたての美味しい野菜。なぜ、この美味しい野菜が都会で気軽に食べられないのかという疑問を持っていた古谷さんは、この機会に有機農業をしっかり学んでみたいと一念発起。古谷さんの話を聞いた奥様の方がさらに田舎暮らしに前向きだったということもあり、ご夫婦で農の学校の現地見学会に参加しました。
 

(古谷さんがいた2019年当時の農の学校内部の様子)


各市町村では、若手農業者の新規就農を促進するため様々な支援制度が計画されています。認定新規就農者制度もその一つ。就農したい人は就農計画を市町村に提出し、市町村により認定されると認定新規就農者として無利子融資などの支援措置が受けられます。この認定新規就農者になる条件の一つに「青年であること」として45歳までの年齢制限があり、古谷さんが条件に合うように就農するには「農の学校1期生」で学び2020年には就農していることが必要でした。この事実も後押しとなり、古谷さん夫妻は農の学校の現地説明会の後にはもう、移住することを決めていたといいます。
 
 
 

移住する前の覚悟が、スムーズな就農につながる


夢いっぱいの就農への道。色々と調べると、農業で生計を立てることの難しさを改めて認識し、移住した先でうまくいかなかった事例なども出てきて二の足を踏みそうになる時もありました。でも、実際に移住してみると、「ご近所の方がみなさんとても親切で、心地よい暮らしができています」とのこと。
今古谷さんが居住と作業場を兼ねている物件は、丹波市の移住定住相談窓口からの紹介で出会いました。かつてお店だったため広い土間があり、農作業との相性も良く、また居住スペースもきれいに管理されていることが決め手となりました。物件だけでなく、自治会とのマッチングも行われたので、移住前に集落での習慣などを知る事ができたのも大切なポイントです。
 

(古谷さんの作業場。道具などが取り出しやすく整理されている)


「日曜日の朝に時々地域の草刈りや溝掃除が入ることは予め認識していたので、戸惑いはありませんでした。」農家には休みの日はありません。農繁期の朝の作業時間が削られるのは大変なこともありますが、集落の方との交流の時間も大切に、地域の一員としての活動も大切に過ごしています。
 
さて、移住して農の学校に通い始めた古谷さんを地域の方は温かく見守り、「卒業したらここを使ったら」と農地の紹介もしてもらえました。「就農したくても農地探しに苦労するケースもあるようですが、私は本当に運が良かったです。」自宅件作業場からも近く、効率よく作業できる農地がタイミングよく見つかり、農の学校卒業後はすんなり独立就農に移行することができました。農の学校で学びを得てよかったことは、家庭菜園とは全く違う、「仕事としての農業」のノウハウを学べたこと。また学校所有の農機も実際に使うことができたので、「独立したらこの農機を買おう」など就農計画も立てやすかったといいます。
 
 
 

畑は看板。信頼でつなげる販路


就農し、前職のSEとは文字通り「畑違い」の暮らしがはじまりましたが、「もともとスポーツが好きだったからか、外で作業をするのはストレスなく楽しめます」と古谷さん。一番好きな時間は畑で黙々と作業をしている時だそうで、手間のかかる農業を少しでも効率的に行うために、圃場や作業場の整然とした美しさも大切にしています。
 
農業を生業とする人の多くが抱える課題の一つが「販路」です。古谷さんも、就農計画時には個人宅への野菜セット発送などを考えていたようですが、お客様が飽きずに楽しむための工夫や多彩な品数が必要なこと、端境期にお届け出来る品目を確保できないことなどから方針転換。現在は、地元のスーパーの地場野菜コーナーに卸したり、農業総合研究所(農家から集荷した農作物を都市部のスーパーマーケットを中心とした直売所で販売する事業を行っている)へと出荷をしたりすることが主な販路。また学校給食も、袋詰もなく大量に買い取ってもらえるのでありがたい販路の一つです。さて、このような販路を古谷さんはどのようにして見つけたのでしょうか。
 

古谷さんの圃場は道沿いにあることもあり、地域の方もその美しい圃場には注目しています。そして古谷さんの堅実な働きぶりを見て、「こんな売り先もあるけど紹介しようか」とお声がけがあったのだそうです。「特に営業活動を行ったわけでもないですが、ありがたいことです」と古谷さんは言いますが、道沿いにある畑で地道に行ってきた作業こそ、看板代わりとなり信頼感からの紹介につながったともいえます。
 

(人参収穫期には丹波霧が出ます)



現在、夏は果菜類、秋はイモ類、冬は根菜、春は豆類など、20品目以上の野菜とハーブを栽培し、ハーブについては奥様がアロマオイルやアロマスプレーにしてイベントやネット販売も行っています。
 

(主に奥様が商品展開を手掛けているハーブ)


「今はまだ農繁期と端境期の差が激しく、収量の調整も難しいので、想定より多くできてしまったときの販路などを開拓していきながら、年中フラットに収益がある状態を目指したい」と今後の展望を話す古谷さん。さらなる技術向上と販路開拓に向けて日々の農作業に勤しみます。
 
 
 

丹波 みの香ファーム

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