丹波市青垣町大名草で、丹波栗と少量多品目の野菜を栽培しているくまゆき農園。足立浩一さんは39歳で孫ターンし、祖父が生活していたというこの場所で新規就農しました。独立就農して7年、農業経験ゼロのところからスタートし、試行錯誤しながら取り組んできた浩一さんの歩みには、これから農業を始めたい人の学びになる要素が多くあります。

(くまゆき農園 足立浩一さん)

 

思い出のある丹波市青垣町で孫ターン就農へ

神戸市で生まれ育った浩一さんにとって、丹波市青垣町は決して縁遠い場所ではありませんでした。休みのたびに遊びに行くほか、小学校6年生から中学校1年生の間は父親の仕事の関係で、現在浩一さんが暮らしている祖父の家に暮らし、学校に通っていました。2年間の田舎暮らしにもさほどギャップを感じることはなく、自然が好きで、自然の中での遊び方も体得していた浩一さんにとっては楽しい思い出の1ページになっています。

食に興味のあった浩一さんは、学校卒業後飲食店で働きました。様々な食材と向き合う中で、「野菜」はいつも気になる存在だったといいます。お肉や魚などのメイン食材にも負けない彩りある存在感、そこはかとない魅力。いつしか浩一さんは仕入れる側・使う側ではなく、「野菜を作る側になってみたい」と思うようになりました。そのタイミングで父親から「田舎に帰って農業でもしたらどうや」と声掛けもあり、「じゃあ農業やってみようかーという、今思えば甘い考えで」と、移住されました。

ゼロから始めた農業は「想定外のことばかり」

農業のノウハウを全く知らないまま移住してきたという浩一さん。まずは丹波市役所に相談し、市島町の有機農家で2年弱研修し、トラクターの運転の仕方や肥料の計算の仕方など、ベースとなる部分を学びました。その後「くまゆき農園」として独立。屋号は祖父の熊一くまいちさんと父の英幸ひでゆきさんから一字ずつもらい、二人から受け継いだ農園という意味が込められています。住まいや農地は受け継いだものがありますが、トラクターや畝立て機などの機械はありませんでした。一年目は貯金を崩して購入したトラクターだけでスタート、畝立てやマルチ張りはすべて一人で、手作業で行いました。そこから毎年優先順位をつけて、必要資材などを購入しています。

(主力の落花生畑。塩ゆでして食べるのが人気)

独立後は市島町と青垣町の気温の違いに悩みました。丹波市の中でも寒冷地として知られる青垣町では、氷点下にある時間も長く、冬野菜の収穫には試行錯誤を重ねています。自らの農園では、廃棄分を少なく、作った野菜を無駄なく安全にお客様のもとに届けようと考え、農薬・化学肥料を使用量半分以下に抑えた特別栽培農産物として栽培。動物性堆肥は使わず、農地には緑肥作物であるソルゴーを育てて鋤き込み、土作りをしています。作物の病気、台風などの災害、イノシシなどの獣害など様々な苦難があり、想定外のことばかりだったという浩一さんですが、一番想定外だったのが経済面でした。いいものを作るための技術研鑽はもちろん大切ですが、それだけでは稼ぐことは難しいのが現状です。天候によって豊作になった野菜は他の農園でも豊作であることが多く、価格競争になってしまった結果利益があがらないこともしばしば。食の基本である農業に対して利益率が高くならない現状には疑問を抱いています。

これから農業を始める人には、自分の経験も役立ててほしい

試行錯誤を重ねる日々ですが、「基本的に楽しいことのほうが多い」とも話す浩一さん。「小さな種から大きな野菜を作る過程で、日々育っていくのを見るも楽しいし、一番アドレナリンが出るのは、収穫の時。今年のこの野菜の品質はとてもいい、と実感する時。そして出来たものがすべて売れて、畝の上に何もない状態を見た時はなんともいえない達成感です」

(就農と同時に植えた栗は7年目。自分と一緒に成長する姿に愛着を感じる)

現在の販路は、飲食店で働いていた関係で繋がった東京の八百屋さんをメインに、市内の直売所や飲食店の卸なども行っています。源流地域が育む、収量も品質も安定した野菜はどの売場でも好評。就農当時は「珍しい野菜をたくさん作ってみたい」という気持ちもあり年間100種類程度の野菜を栽培していましたが、現在はお客様に人気のものを中心に年間40品目程度に絞っています。「農家によって得意な野菜、苦手な野菜というのがあるみたいで、他の人が簡単という野菜が僕には難しかったり、逆に苦手な人が多いというとうもろこしが得意だったり。得意なところで喜んでもらえたらという気持ちで取り組んでいます」

就農相談を受けるたびに、浩一さんが話していることがあります。自身が独立した7年前に比べ、トラクターなどの機械や資材も値上がりしていること、野菜保管庫のない家に住む場合はその建築費用なども見込まないといけないこと。これから新規就農をする人は一にも二にも貯金があった方がいいと浩一さんは話します。保管庫の建築も考えると、最低でも600~700万円くらいの資金は見ておいたほうが良さそうです。

また、畑の選び方も大切です。作業場から近いことなどで選びがちですが、石が多くないか、土が深くあるか、水はけが良いか、草刈りの面積が広すぎないか、周囲が耕作放棄地になっていないかなど、本当に農地を借りる前にきちんと見定めることが重要。経験に基づくアドバイスを、これからの人には役立ててほしいと浩一さんは考えています。

畑一枚から始まった「くまゆき農園」も、農地は約20箇所に広がり、7年かけて農作業のルーティンができてきました。「それでもまだまだ、技術が圧倒的に足りてないですね。主力になっている野菜をもっと安定させていきたいと思っています。」日々楽しみを感じながらも向上心を忘れない浩一さん。多くの人に野菜を届けて喜んでもらえるよう、精進する日々です。

くまゆき農園

所在地:兵庫県丹波市青垣町大名草1156−2

https://stones3926.amebaownd.com/

https://www.instagram.com/kumayuki_farm/