丹波市市島町乙河内で農業を営むいしはらファームの石原聡さん。2年前に新規就農されたにも関わらず1.5ヘクタールを超える栽培面積を手がけています。心も体も潤い満たされ健康になるような野菜や花卉を育てたい。そんな想いで日々、農業に勤しむ石原さんにお話をお伺いしました。

岡山県出身の石原さんは大学院時代には遺伝子工学の研究をされていました。

しかし、毎日研究室にこもり研究をするということは自分には向かないとわかり、卒業後は鹿児島で観賞用の花や植物を栽培・販売を行う農業法人に就職します。

奥さまの郁恵さんも同じ職場で働いており、結婚を機に郁恵さんの地元である丹波市に来て暮らし始めました。

はじめは氷上町で暮らし、3年ほど鉢の苗を育てる会社に勤めました。その後、2年前に独立。

郁恵さんのご実家がある市島町乙河内で農業を営むようになりました。

 

豪雨災害の被害による農地整備とそれに伴う圃場面積の広さ

実はこの乙河内という地域は2014年の丹波市豪雨災害時に土砂崩れによる被害が数多くあった地域です。

田畑のほとんどが土砂に埋まってしまい、土地改良計画を策定し農地の整備をし直しました。対象区域の圃場は農業機械の許容延長を基に1辺が100~150m が適正範囲。石原さんも当初は7反ほどの耕作地でしたが、自治会からの要請もあり1町を超える面積を割り当てられ今の圃場で作物を育てるようになりました。

 

農地を整備する際に、乙河内を流れる川の上流にある貯水槽から用水路ではなく、排水設備を整えたため、各圃場には水が引かれており、バルブを捻れば取水できるようになっています。

農会費はかかるそうですが、このような設備付農地はなかなかありません

 

 

元気な作物が育つ姿を見ることが楽しい

畑には植えたばかりの秋採れコーンやインゲンがすくすくと育っています。

その奥の畑では丸々としたナスが実をつけています。

雑草が生えないように、虫に食われないように、除草剤や農薬を撒けば楽ですが、野菜は洗って食べないといけないという認識が当たり前ということに疑問を感じるようになりました。

これまでは特に疑問も持たず、小さな畑で慣行栽培もされていましたが、新規就農のタイミングでお子さんが生まれたこともあり、安心して食べられる作物を育てたいと思うようになりました。

農薬を使うことをやめ、作物が健康に育つ工夫を続けていると、元気な植物には虫はつきにくいことに気が付きます。弱くなった植物に虫は寄って来る。農薬は一時的には虫は避けられるけど、使わなくなれば虫が来て、弱った畑になっていく、そうすれば虫と農薬とのせめぎ合いを続けることになる。

ナスの周囲には元気なバジルがコンパニオンプランツとして葉を広げています。

 

石原さんが手がける作物は、ナスにししとう、空芯菜、オクラ、コーン、黒枝豆にネギ、人参、大根、そしてもち米など

いろいろな種類の作物を、1人で行う新規就農にしては面積も手広く手掛けている印象です。

量が少なすぎると急な対応に応えられない場合も多く、また朝から晩まで同じ野菜ばかりを手がけるのは自分には向いていないと話します。

いろいろな作物が育つ様子が楽しいのだと無邪気な笑顔を見せる石原さん。次は蓮根畑も手がけたいと考えているのだとか。

ナスも普通よりも木に実がつきにくい「究極の茄子」という品種を育てています。理由は自分が美味しいと感じるから。

喜ばれるもの、そして人がなるべく手掛けていないものを育てていきたいと考えています。

心も体も元気になれる作物を

最近は、丹波太郎の配達もお手伝いしている石原さん。

神戸の販売所で消費者の方と直接お話しされている中で、みんな野菜が届くのを待ってくれていると感じ、冬場もなるべく野菜を切らさずに栽培したいと話します。

黒枝豆の栽培を今年は昨年の1.5倍の面積に広げました。またゆくゆくは栗も植えていきたいと計画しています。

都会に行くと、やはり特産品が喜ばれると感じており、やりたいことはどんどん増えていきます。

 

前職で観賞用の花や植物を育てていたこともあり、やはり花も手がけていきたいと話す石原さん。

花は心を満たし、潤してくれるものなのだとその重要さを感じてきました。

しかし、勤めていた農業法人の完備された設備環境と違い、露地栽培で見た目が命の花卉を育てることはとても難しい。

収穫時期も限られ、また同じ種類の植物を1箇所にまとめて植えていると病気や虫が流行りやすく、弱ってしまうのではないかと感じています。

出荷している鑑賞用のホオズキは、他の生産者が減少しており、市場では要望の声を多くいただく中で安定した生産が課題です。

植物に限らず、鶏も育て、また羊も飼いたいと楽しそうに笑います。

生き物が元気に育つ姿を見ることが楽しい。花卉も野菜も心と体の両方を芯から健康にしてくれるような農業をしていきたい。石原さんの想いの中心には、本来自然に備わった生き生きと育つ命の源泉を大切に思う気持ちがあるように感じます。

 

今後は、収益性を安定し、蓮根や栗、そして花卉も広げていきたいと考えています。そのためには人の雇用も視野に入れながら、安定した生産と売上を目指し挑戦を続けます。

また、奥さまの郁恵さんはご実家で長年販売してきた杵つき餅の販売を引き継ぎ、加工品も手がけていきながら丹波市の農家さんの助けになるようなネットワークができたらと取り組んでいます。

小さな2人のお子様を育てながら、心も体も元気になれるそんな農業を続けるいしはらファーム。地域と共に歩む彼らの姿にこれからの未来を期待します。