「自分は、農業をやりたいというより、有機野菜がもっと売れる環境づくりをしたいんだなと思った」
そう話してくれたのは、4月から「農の学校」で学ぶ町田百恵さん。
農業経験ゼロの状態から飛び込んだ学びの場で、まもなく約3カ月が過ぎようとしています。
終始笑顔でリラックスした雰囲気で場を和ませ、自分にとって無理のない距離感で農業に関わる町田さんは今、どんな気づきを得て、どんな未来を描いているのでしょうか。
農業をためしてみようという気持ちで選んだ、丹波での1年間の学生生活
町田さんが農の学校に入学したのは、「農業が自分に合うかどうか、ためしてみたかったから」だと言います。
農家出身ではなく、これまで農業と関わる機会もなかった町田さんにとって、いきなり農業の仕事をすることには不安がありました。
「求人募集では未経験でも大丈夫ですとあるけれど、合わなかったときにすぐ辞めればいいというものでもない。なら、まず学校で1年間学んでみるのも無駄じゃないかなと思って」
農の学校を選んだのは、週末だけの学びや短期の研修よりも、より実践的で深く学べる環境だと思ったからだといいます。
実際に農業に関わることになったときのリズムに近い生活をするほうが、”おためし”の機会としては適しているだろうと思ったことも、全日制である農の学校を選んだ理由でした。
食を通した健康づくりなどを通して、以前から気になっていた農業の世界
父親が食の雑誌の編集者だったこともあり、幼いころから「体に良いものを食べる」習慣があたりまえのようにあったという町田さん。
その後、レストランでの仕事や健康維持のためのサプリメントの販売を行う病院での仕事などを通して、食を通した健康づくりの大切さに気付いたそうです。
その後色々なタイミングが重なって進路を考え直している際に、食や健康などを通して以前からなんとなく興味があった”農業”の選択肢が少しずつ現実的な選択肢として浮かんでくるようになりました。
必ずしも就農だけをゴールとせず、“農”という軸で、暮らしや生き方全体を見つめ直す——農の学校のこのようなスタンスも、そんな町田さんの感覚とフィットしたのかもしれません。
「全部がたのしい」農に触れながら過ごす学びの日々
ここでの生活が始まって楽しかったことは?という問いに、「なんだろ。なんか全部楽しい」と笑顔で答えた町田さん。
これまでの数か月で特に印象的だったのは、最初に蒔いたトマトの種を収穫した体験だと言います。
「このあと片づけをすることなどを含めて、これが生きること、これが農業なんだって。」
実習をメインとした様々なカリキュラムがある学校生活では、ペーパードライバーゆえに最初は怖かったというトラクターの運転も、乗ってみたら意外と楽しかったり、様々な発見や思いもしない楽しさに出会う機会も多くあり、これまで触れてこなった農業の世界にいきなりどっぷり浸かる日々も、町田さんらしく楽しんでいるようです。
生まれ育った東京とは大きく異なる丹波での暮らしについても「すごくいいところ」と話す町田さん。
「地元の人たちが週末にマルシェをやってたりするけれど、みんな『丹波をもっとよくしよう』って思っているのが伝わってくる。東京でやっているマルシェとは全然違う雰囲気で、フレンドリー。」

実習でとれた野菜のうち傷がついて出荷が難しいものなどは、受講生などみんなで日々持ち帰ります。
「まずは一人でもちゃんと米や野菜がつくれるようになりたい」
卒業後の進路についてはまだはっきりとは決めていないものの、「食や環境に関わる仕事をしたい」という気持ちはあるという町田さん。
野菜を育てたいというより、有機野菜が選ばれる環境づくりをしたいということがわかったと話します。
「ヨーロッパでは環境のためにオーガニックを選ぶのが当たり前になってきているけど、日本では“健康のため”がほとんど。そうじゃない価値観がもっと日本で広まっていけばいいな、と。」
やわらかく肩の力が抜けた姿勢をもって、仕事としての農業に限らない、等身大の方法で農に関わる道を模索しています。

実習終了後の教室で、それぞれが考えた今後の作付け計画へのアドバイスを受けているときの様子

長靴などを保管するロッカーが、校舎の外側にあります。
「自分が農業のことをある程度ちゃんとわかっていないと、誰かに伝えたり、提案することもできない。だからまずはしっかり野菜が作れるようになりたい」と話す町田さん。
幅ひろい視野を持って農業へのかかわり方を模索しながらも、体系的な知識を持つことの大切さを理解し日々の実習にこつこつと取り組むその姿に、地に足の着いた頼もしさのようなものを感じました。
町田さんは先日、関東への帰省の際に、卒業後の進路の候補先をいくつか見学してきたそうです。
今後の生き方についての話の中でも、今過ごしている丹波の自然環境や立地、授業で得た野菜づくりの知見がたくさん出てきたことが印象的でした。
自分がやりたいと思う農業のかたちや、それに適した自然環境。
農業の知識・経験ともに全くなかったという町田さんですが、生活がまるごと学びの場であるようなこの農の学校での3カ月の期間を通して、ひとつひとつ、これからの人生を選んでいくための具体的な検討材料がたしかに蓄積されていることを感じました。
農業という枠を超えて、社会全体に働きかけるような視点を持つ町田さん。
彼女のこれからの一つ一つの選択が、どんな風に周囲に広がっていくのか、今からとても楽しみです。