丹波地域では、秋から冬にかけて「丹波霧」と呼ばれる濃い霧が発生します。この霧や昼夜の寒暖差は、野菜だけでなく果樹の甘みを増すといわれています。丹波市市島町にある「奥丹波ブルーベリー農場」で、古谷洋瓶さん暁子さん夫妻がブルーベリー栽培をはじめたのは2004年。その当時に比べると現在は、市全体のブルーベリー農家や作付面積も増え、ブルーベリーは丹波市の新たな特産品候補としても注目されています。
就農に後押しされた結婚。慣れない環境で農業と向き合う
京都で生まれ育ち、京都市内で働いていた洋瓶さんと暁子さん。自然豊かな環境で有機農業をしてみたいと、洋瓶さんは農業を志し、暁子さんに相談します。まだ結婚していなかった2人ですが、「移住するなら夫婦の方が地域にも受け入れてもらえやすいのでは」という周囲のプッシュもあり、急遽結婚を決意し、2004年に丹波市に移住。移住にあたっては、当時、市町村合併前の氷上郡市島町で、有機農業のハブ的存在「いちじま丹波太郎」に相談し、農地や家、研修先も探しました。地方移住は住処を見つけることが大変だと聞いていましたが、条件に合う物件がタイミングよく空き家になり引っ越しもスムーズに済みました。
20代の若い夫婦が県外から移住して就農。集落にとっては前例のないことで、「本当に農業をするのだろうか」と地元住民の話題になっていたそうです。消防団に日役、慣れない環境の中でなんとなく注目されているのを感じていた2人ですが、「やるべきことやるしかない」目の前の農業に尽力。徐々に住民からの信頼も得て、借りられる農地も増えてきました。また、2人の間に子どもが生まれたときはたくさんの温かい言葉をかけてもらえました。
若いからできた、計画的な補助金の使い方
さて「奥丹波ブルーベリー農場」という屋号ですが、2人がブルーベリーの栽培を始めたのは就農して1年経ってから。始めの1年は有機野菜で生計を立てていましたが、売り先はほぼ身内だったと話します。当時市島町からの支援事業として振り込まれていた、月10万円の補助金は全額貯金。若さとフットワークを活かし、暁子さんは京都市内での前職をアルバイトに切り替えて通い、ときには職場に野菜を売りに行ったりもして生活費をまかないました。1年経った頃、野菜だけで生計を立てる難しさに直面した2人は、新しいことを始めようと思い立ちました。地域に夏の産品がまだ少なかったことや、ブルーベリーのおしゃれなイメージにも惹かれ、2人は貯金した補助金120万円をすべてブルーベリーに投資し、約500本のブルーベリーを植樹。ブルーベリーの栽培が軌道に乗った4年後からは、4月から春夏野菜へと、また7月上旬から9月かかりまでブルーベリーの収穫出荷、10月からは秋冬野菜をメインにと、年間通したリズムもできてきました。子どもが生まれてからは職場等での野菜販売ができなくなりましたが、買ってくれていた方からの「美味しかったから送って欲しい」と声を受けて個別販売を開始。口コミで広がった個別販売や飲食店、小売店への卸が現在の野菜の主な販路です。
ブルーベリーは植樹から収穫まで3年、収穫が安定するには4年ほどかかります。数年単位で先を見通した栽培計画でしたが、2人には心強い味方がいました。地元産品を使った加工品やケーキを販売している「夢の里やながわ」の社長さんもその1人。移住就農当初から2人を応援し、2人がブルーベリーを植えることを相談したところ、「収穫できるようになったらウチが買うから頑張って」と植える前から約束。現在毎年右肩上がりに収量が増えているというブルーベリーは、2人を応援する飲食店などへの出荷をメインに、ブルーベリーの収穫が最盛期を迎える夏には摘み取りのお客様も受け入れています。収穫・出荷の作業と並行した受け入れなので、摘み取りは基本午前中のみ受け入れています。お客様は広い農場を自由に行き来し、思う存分ブルーベリーの味を楽しみます。都会から来たお客様は、見渡す限り一面のブルーベリー畑で過ごす、フリーで非日常な時間に癒やされ、リピーターになる人がほとんどです。
「摘み取りだけでなく、『丹波に来る』という楽しみがお客様にはあるので、近隣のケーキ屋さん、暑い時期にはおすすめのかき氷屋さん、おすすめのランチスポットも帰り際には紹介します。自分のところだけでなく、丹波市全体がつながって豊かになれたらと思っています」
お客様とのふれあいも毎年楽しみだと暁子さんは話します。
神様の気まぐれに翻弄されることもあるけれど、農業は楽しい。
子育てはのびのびした環境で行いたい。そう思ったのも2人が移住した理由の1つでした。知り合いのいない土地での子育てでしたが、近所に同年代の子どもがいるIターン家庭とも家族ぐるみのお付き合いがあり助け合っています。夏休みに家族全員で出かけることは叶いませんが、友人家族が子どもたちだけを海やキャンプに連れて行ってくれたこともあったのだとか。そしてブルーベリーの時期が終わったら古谷家は秋休みに入り、家族でゆっくり出かける時間を取ります。「でも、特別なところに行かなくても、ここは空もきれいで星もきれい、流星群の日は家の庭で寝転がるだけでいい。都会の人にとっては特別なことがここではすごく生活に密着しています」。お子さんたちも自然の変化を間近に感じ、感性豊かに育っている様子です。
「雨が降るとブルーベリーは水っぽくなるので一切出荷していません。雨ばっかりが続くと収入に大きく影響するので、最初はなにかできないかと必死に抵抗しました。その結果『自然に抵抗することは意味がない』ということに気づいて」夏の農業は特に神頼みの雨次第。冬の農業は大雪でハウスが壊れてしまったこともあり、その経験から雪下ろしなどできる対策は行います。積み重ねた努力も神様次第で変わってしまう厳しさはありますが、農業の喜びはと聞くと、「ブルーベリーもきれいに剪定したら、喜んでくれているような気がする。お野菜でもきれいにマルチ張って、きれいに耕したかのを見ていると気持ちいい。収穫する前の野菜の色も、夏の前のブルーベリーの色も毎年見ていてもきれいだなと思う。そして来てくださった方が美味しいと喜んでくれる顔を見ているのも楽しい」
喜びや楽しさを感じる風景がどんどん言葉に乗って出てきます。これからも現状維持で、夫婦2人でできるだけのことを続けていきたいと話す2人。また次の夏に向けて、ブルーベリーの剪定作業に精を出します。
奥丹波ブルーベリー農場
所在地:兵庫県丹波市市島町南1102-5
TEL:090-9707-3766
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