丹波市春日町野村で、江戸時代から先祖代々農業を営んできた婦木農場。現在婦木農場では水稲7ha、野菜1.5ha、豆類1ha、小麦0.35haのほか、酪農と養鶏を行っています。年間を通じで100種をこえる野菜を栽培し、米、豆、野菜、牛乳を使った加工品も多数展開。農業を通して次々と新しいことを発信している婦木農場のあり方は、現役農家はもちろん、就農を志す人にとっても理想とするモデルケースの一つになっています。今回は婦木農場10代目の婦木克則さんに、これまでの歩みと農業への思いをお伺いしました。

 

(婦木克則さん)


 
 
 

農業は、楽しんで取り組めばいい

克則さんは、婦木農場の長男として生まれ、水稲や酪農を手掛ける両親や祖父母の元、乳搾りやなすの箱詰めなどの手伝いをしながら育ちました。「自分がこの農場を継ぐのだろう」迷いや疑問もなくそう思い、中学卒業後は農業高校に、その後東京の農業者大学校に進学しました。農業を自らの生業とすることに迷いはありませんでしたが、当時の農家の大義は「いいものを作り出荷する」と生産に専念する形で、売り方を知る機会がないことに関しては疑問を持っていたといいます。
 

 
ただひたすら土にまみれ、歯を食いしばって働くのが農業だと思っていた克則さんの価値観を変えたのは、農業大学校でのさまざまな出会いでした。休日は美術館巡りをするという女性農業者、丹波市では出会うことのなかった価値観を持つ同級生や講師の話を聞くうちに、「楽しんで農業をすればいい」というひらめきにたどり着きます。現在も婦木農場のキャッチフレーズとして親しまれる「今、農村はおもしろい!」はこの出会いの中から生まれました。

自然の力、風土に残る伝統、先祖代々受け継がれた技術は大きな財産であり、その価値を存分に生かして農業をしていく。その思いが込められたキャッチフレーズに惹かれ、電話をかけてきた女性がいました。その女性こそ、後に克則さんとともに今の婦木農場を形作っていく、奥さまの奈保子さんです。
 

 
 
 

「一度は故郷を離れて…」地域の子どもたちに望むこと

婦木夫妻は、1女3男に恵まれました。「家族みんなが元気で笑顔に過ごせること」をベースに、克則さんはますます農業に意欲的に取り組みはじめます。自分の子どもたちが畑で丸かじりできるものを作ること。自然の恵みとともに、家族で楽しんで農業に勤しむこと。子どもたちにはそれぞれ小さい頃からニワトリを飼わせ、卵を買い取る形でお小遣いを与えるなど、農業に親しませながら育てたと言います。そしてその子どもたちが中学生になる頃、克則さんは地元の中学校で農業や食についての講演をするようになりました。それから現在まで毎年中学校からの依頼を受け続けていますが、克則さんが毎回中学生に伝えることは「一度は故郷を離れて外で学んで来てほしい。そして得た学びを、地元に返してほしい」ということです。

 

 

克則さんのその思いを体現しているのが、長男の敬介さん、次男の陽介さんです。敬介さんは農業学校卒業後、静岡県の牧場で半年間修業し、その牧場からジャージー牛の子牛を2頭連れて帰ってきました。敬介さんはその後日本のチーズの第一人者に弟子入りし、渡仏して本場のチーズにも触れ、現在は婦木農場内の「丹波チーズ工房」で多種類のナチュラルチーズを手掛けています。2021年には国産チーズの最も歴史あるコンテスト「ALLJAPANナチュラルチーズコンテスト」にて、最優秀賞となる農林水産大臣賞を受賞。丹波市で最高品質のチーズを生産していることに注目が集まっています。陽介さんは婦木農場の主力である米や野菜の生産に従事する他、高専卒の技術力を生かし、ネット販売などITの力で家業を広げています。

 

(丹波チーズ工房shop)

 

(ジャージー牛の乳を使ったソフトクリームも人気)


 
 
 

会いに行ける農家、開かれた農場へ

(2023年夏 オープンファームデーの様子。京阪神から多くのお客様が集まる)

 

子どもたちにとって「帰ってきたくなる農場」だった婦木農場。克則さんはかねてより、農家と消費者が直接関われる機会が少ないこと、農場に消費者が気軽に入れないことに疑問を感じていました。「今、農村はおもしろい!」このキャッチフレーズを、家族だけでなく消費者にも直接感じてもらえる場所を作りたいと、2012年、一棟貸し農家民宿施設「農家体感施設◯(まる)」を完成させました。奈保子さんの作る農家の家庭料理を食べ、農村の空気を感じながら泊まる、学び多い時間。克則さんもともに食卓を囲み、農業や暮らしの話に興じることもあります。移住希望者が「◯(まる)」に宿泊し、その後実際に丹波市内で就農したというケースもあります。

 

(来てくださるお客さまに楽しんでいただくため、季節の花も植える)

 

また、毎月第1・第3日曜日には農場開放「オープンファームデー」を開催。オープンファームデー」は、その名の通り農場を一日開放し、農業の現場、にわとり小屋や牛舎、野菜畑などを自由に見て回れます。普段は農業に勤しむ婦木さん一家も、この日ばかりはお客様との語らいの時間を設けているので、農家さんのお話を聞きたい方にもおすすめです。

オープンファームデーの目玉とも言えるのが、自家製の農作物・加工品を使った「農家のおうちごはんバイキング」。作物を作る農家だからこそ、野菜の一番美味しい食べ方を知っています。たとえば夏の初めから秋まで収穫できるナスも、やわらかいものは焼き茄子に、実がしっかりしたものは麻婆茄子、秋ナスはお漬物に…など、レシピの引き出しは豊富。奈保子さん自身も丹波市で育ち、地域の炊き出しに駆り出されてきたことで地域に伝わるレシピを自然に体得してきました。また「◯(まる)」に訪れるお客様にはシェフの方も多く、青トマトのマリネなどシェフ直伝のレシピも多数。見て、聞いて、食べて、農村の魅力を五感で感じ、農村の豊かさに気づく一日になります。

 

(「農家のおうちごはんバイキング」)

 

(盛り付け例)

(盛り付け例)

 

先祖代々受け継いできた有形無形の財産を、次世代に繋いでいきたい。克則さんのアイディアと挑戦は止まりません。婦木農場のオープンファームデーのケースをきっかけに、全国に農場開放の動きが広がっていってほしいと、克則さんは考えています。農場の豊かさと楽しさを丹波市から発信することで、全国各地の農業のあり方を変えていくことも、数ある挑戦のうちの一つです。
 
 
 

婦木農場

所在地:兵庫県丹波市春日町野村83

TEL/FAX:0795-74-0820

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