青垣町と春日町で約25ヘクタールの広大な農地を手がける株式会社百姓屋あしだは、蘆田圭介さん、孝公さんの兄弟で営まれている、設立からわずか2年目という新進気鋭の農業法人です。

蘆田さんたち自身が暮らす青垣町東芦田には集落営農組合がありました。ところが、強いリーダーシップで営農組合を牽引されてきた組合長さんが急逝されました。数年間は、組合員の皆さんで力を合わせて運営をされていましたが、高齢化が進む中、運営が困難になり解散することになりました。蘆田さんたちは、これまで兼業農家としてお米や小豆、黒豆、栗などを自家消費や知人への販売をする程度の栽培を行なってきました。そんな中、営農組合が管理する農地や機械などを、できれば地元の人に引き継いでほしいという話が持ち上がります。そこで、ご兄弟で新たに農業法人を立ち上げ、引き受けることになりました。

お二人とも、職人としてそれぞれの仕事に長年携わってきました。圭介さんは、60歳まで毛皮職人としてバッグやコートなどの高級レザー商品を作る仕事をしてきました。弟の孝公さんは、現在も瓦職人として仕事を続けています。

圭介さんは、17歳の時にアルバイトとして毛皮職人の仕事を始め、40年以上にわたって技術を磨いてきました。定規を使わなくても丸や直線など思い描いた形を自在に作れるまでに技を磨き上げ、「そろそろ技を極めたのではないか」と感じるようになったといいます。そんな思いもあり、仕事を辞める時期を考えるようになりました。

高度経済成長の時代には飛ぶように売れていた高級毛皮ですが、近年は欧州諸国で動物福祉の観点から毛皮養殖が禁止され、市場を取り巻く情勢は年々厳しくなっています。若い頃には毛皮職人としての独立を考えた時期もありましたが、技術を磨き年数を重ねるにつれて毛皮需要は下がっていきました。それに対して、食べるものをつくる仕事への需要はなくならないと感じ、営農組合解散を機に退職を決意。「東芦田のお米を食べたい」という地域の人たちの声もあり、株式会社百姓屋あしだに農地を託してもらえることになりました。

 

専門家の力を借りて農業法人の起業へ

農業法人の立ち上げはお二人にとっても初めての経験です。JA丹波ひかみ、丹波農業改良普及センター、丹波市の職員さんや、税理士の先生など、皆さんの力を借りて、関係者で何度も集まり、どういう形で進めていくのがよいか打ち合わせを重ねます。そうして昨年1月より法人としての経営が始まりました。

自分たちだけの力でできた会社ではないので、絶対に潰すことはできない。また、東芦田の地域の皆さんの信頼を受けているため、地域のこともしっかりと考えていかなければならない。責任感と使命感を持ちながら田畑を耕す姿に、農地を任せたいという方も多く、昨年度は21ヘクタールだった面積が、今年度は25ヘクタールほどに拡大しています。

昨年度は、全国的にお米の価格が大きく高騰していました。しかし、今年度は価格が下がっています。面積を増やしても売上は昨年度に比べて減少する見込みとなっており、価格の変動に一喜一憂しなくていいように今後はさらに面積を増やして盤石な体制を目指されています。

現在は6.5ヘクタールほどで小豆、0.5ヘクタールほどで黒豆、残りの面積は稲作と栗の栽培も行っています。

1年目の経験で、自分たちが草刈りに追われてしまうと、なかなか作物の様子を見ることができなくなるということがわかり、今年は草刈りを地域の方にアルバイトとして手伝ってもらう形をとりました。様子を見に来られるJA職員さんの発言から農業におけるヒントをたくさん拾い上げ、他の業種の方からも経営のヒントをどんどん吸収していき、試行錯誤や実践を重ねています。

 

大局的な視点で物事を見る

蘆田さんたちは、営農組合から引き継いだ機械を入れ替えたり、ドローンを導入したりするなど、設備投資にも積極的に取り組んでいます。

毛皮の仕入れ額に比べれば、農業の仕入れ額や必要経費はそこまで大きな金額ではない。何百万円もする小さなバッグに比べれば、農業機械は1台導入すればこんなに広い面積がとても楽に作業できる。そんな感覚から積極的な投資にも迷いがありません。

「小さな振る舞いをすれば、小さくまとまってしまう。だからこそ、大きな振る舞いを心がけること」。そして、「日頃から人前では笑顔でいること」。圭介さんは、若い頃、知り合いの経営者に言われたこの二つの言葉を、今も大切にしています。

農家になったというよりは、経営者になった感覚に近いと話す圭介さんにとって、田畑は生産工場であり、栽培する作物は商品です。

傷や汚れのない、品質の高いものに仕上げて納品する。そして、それが次の仕事につながる。長年、毛皮職人と瓦職人として経験を積んできたお二人だからこそ、広大な面積に初年度から挑戦できているのかもしれません。

感覚を大切にしている圭介さんと、きちっと真っ直ぐに機械を動かす孝公さん。職人として異なる道を歩んできたお二人は、それぞれの得意分野を生かしながら、農業でも役割を分担しています。

 

二人の職人が新たな仕事場で技を生かす

毛皮も瓦も、そして農業も、「ものをつくる仕事」であることに違いはありません。長年培ってきた技術や経験、仕事への向き合い方は、新しい仕事の中で生かされ、新たな価値を生み出します。

つながりを活かし、得意分野でいろんな人から力を発揮してもらい、機械や技術の力も使い、より強靭な農業経営を目指す。職人から農業経営者となった二人の挑戦がこれからどんな実りを生み出していくのか、楽しみでなりません。